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新 勝手にコム論

元宝塚歌劇団雪組トップスター朝海ひかるさん!舞台道を走り続ける朝海さんのちょっぴり昔の記録です^^

カテゴリー「脳内コム論」の記事一覧

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ホセと中尉と貴族と悪党


「何で僕はユダヤ人なの?」(@凱旋門)


「ママッッ!!」(@アンナ・カレーニナ)



小さな身体で子役も演じることが多かった雪組の娘役シナチクこと
山科愛ちゃんが、今年末での退団を発表してしまいましたね~~><



そしてシナチクと同期の可愛らしい男役・ラギちゃんこと柊巴くんも退団を発表。




「浜松様!!何だか変な気持ちになりそうだ^^」(@睡れる月)


『ベルサイユのばら』でのオープニングのダンスで見せてくれた
藤原竜也くんに似た、あの可愛らしい彼女の笑顔も大好きでした><



雪組の85期生は個性的な魅力の持ち主が多くて、
ダンサーも多いし、ビジュアルも綺麗な方ばっかりで^^
コムちゃんの雪組時代にも大活躍されていました!



コムちゃん時代の雪組ではかなり下級生と思っていたシナチクもラギちゃんも
今の水さん雪では欠かすことのできない中堅組になっていて・・・
時の流れを感じます。



2人のサヨナラ公演は座付き作家として、素晴らしい舞台を作ってくださる
正塚先生と荻田先生というスペシャルな2本立て!!



またまた論者が燃えに燃えていた時代の雪ん子が退団発表をしてしまい、
びっくらして、寂しくなっっちゃて・・・。



最後まで思い出の雪ん子2人の舞台を応援しますよぉ!!






ところで、コムちゃんはあと1ヶ月に迫った『エリザベート』の
お稽古にどんどんと励んでらっしゃるのでしょうね~~。

制作発表記者会見とかないのかなぁ??



やった方がイイよぉぉ~~絶対!!
(動くコムちゃんが見たいんだもんッ)


エリザベートさんの演者が変わったんだもん!
絶対にメディアで発表した方がイイよぉぉ~~!!
(だってコムちゃんが見たいんだもんッ)




そんなこんなでコムちゃんがシシィの演技、お歌に
必死に取り組んでいると想像しながらも、
遅れに遅れた論者は、6月の初めに東京へカルメン遠征に
出かけていた友人2人から、かなりの量の感想をお聞きして(笑)

しかも「これで想像して頑張りね~っ」と、
コムカリィの美人画が載っているパンフレットまで頂いて^^
嘗め回すように見入ってしまいましたッッ!



2人の饒舌な語らいがかなり面白くって・・・・・

こんなことを劇場で言っていたら、つまみ出される位の勢いと内容で(笑)


見にいけなかった私にも劇的に伝わってくるものがありましたッ!!



結論としては、コムカリィの入りまくった演技に大感動でき、


何でこれを宝塚時代に

水夏希のホセと朝海ひかるのカルメンで
舞台化しなかったのかが疑問!!!


というククリにたどり着きましたッッ!!




こう考えた方もきっと多いはず!!
マニアンケートでも多い意見でしたものッ^^
(皆様ご協力ありがとうございます)





パンフレットもいいッ!!これイイ!!!



男性人がどの人もこの人もカッコイイんだも~ん!


コムちゃんが麻実れいさんに見えるッッ!

あの魔性のオーラが何とも言えません。





カルメンに出会いどうにも自分をコントロールできなくなったホセ。


カルメンを自分のものだけにしようと張り切った中尉殿。


カルメンと過ごすことを純粋に楽しんだヘンリー貴族。


カルメンを理解し、夫婦の契りを交わした悪党ガルシア。





上から・・・・

水さん。

わたるさん。

カシちゃん。

瀬奈さん。





といった配役でしょうかねぇ(・ ・)


チケット取れないわ~~~~~ッッ!!



どこまでも妄想に参加させられてしまうジェンヌの皆様に
ここは1つ平謝りでもしなくちゃ・・・ペコリ。

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和服の朝海さんネタで⑤


最近は若々しい時代の男役・朝海ひかるをよく上映します。

『SAY IT AGAIN』なんて、何だかとっても微笑ましい。

コメディセンスがあるんだか、無いなんだかと言えば、
いんでしょうが・・・。

でも、この『SAY~』時代のコムちゃんはセンスが感じられますよ!

『再会』のセンスの無さが嘘のようよ。・゚・(ノД`)・゚・。・。
『君に恋して~』のときもセンスあったのになぁ・・・
どうしたもんかなぁ~(`ε´)ノ


そして女優の朝海さんがトライするのはこれまたラブコメという事で!!
きっと今回は若かりし頃のコメディエンヌ・コムを拝めるはず(*´∀`*)

公式ブログも出来たようで、とっても楽しみですねぇ!!



それでは「おみつさん」いってみよぉ!!
知らぬ間に下巻に突入(*´∀`*)ノ








その夜もたっぷり更けてから、おりんは1人、階上の座敷へと上がっていった。


ふね屋のなかは静まり返っているが、寝静まっているわけではない。大人たちは台所にいる。片付けをすっかりと終えてはいたが、太一郎も多恵も腑抜けのようになっている。気丈なおつたも珍しく涙ぐんでいた。


おりんは話がしたかった。誰か・・・お化けさんと。

いつものように中段に腰かけていれば、玄之介が来てくれるかもしれない・・・・・と、おりんが座敷から階段の方へ歩いたとき、座敷の端っこで何かが光った。


そこにはおどろ髪が座っていた。


おどろ髪は両腕で身体をかかえて座っている。光ったのは彼の頬だった。彼はまた泣いていた。


おりんはほとんど怖いという感情を持たず、おどろ髪に話しかけた。

おりんは優しく話しかけた。


彼は上手く口が利けなかったが、ゆっくりと話し出した。


彼は昔、人を斬ったのだ言う。大勢の人を斬ったと。


そしておりんに言う。あの銀次という男に近づいてはいけないと。そして自分もあの兄弟と同じ様に、血を分けた兄弟を殺したのだと。


おりんが身震いをした瞬間、おどろ髪はそこから消えていた。



おどろ髪は、彼自身の兄か弟を手にかけたのだ。
おどろ髪は、自分の兄弟を殺した事を深く悔いて、それが故に迷ってしまっていると考えれば、彼がなぜ島次と銀次の揃っている場所に現れて、手放しでおいおい泣いていたのかという謎は解ける。島次と銀次の間にあった出来事は、明らかにおどろ髪の胸の傷を疼かせた。おどろ髪には自分が過去に犯した所業そっくりに思えたのだろう。


そしてもう1つ。おみつの言葉も思い出された。おどろ髪の魂を迷わせているのは若い女に関わる事柄だと、彼女は言っていた。だからあの人は若い女がやってくると気持ちを乱して迷い出てくるんだよ・・・と。




次の日、おりんはまた1人、銀次のこと、おどろ髪のことを調べるべく、街中を動き回った。そこで得た情報を1人で抱え込みふね屋に戻ってきたおりん。

するといつもの場所に、玄之介が腰をおろし、両手で頬を支えて所在なさそうにしているのが見えた。ちゃんと先回りして待っていてくれたのだ。

「玄之介さま!!」おりんは階段を駆け上がった。



おりんは1日中歩き回って、得た話を玄之介に話した。

おりんの父親である太一郎の育ての親、七兵衛おじいちゃんから聞いた話では、白子屋にはお静の他にもう1人、外腹の娘がいるということ。

七兵衛おじいちゃんの妻、おさきさんには銀次のお化けさんの姿が見えていたということ。

おりんの前に現れてはあかんべえをするお梅というお化けが孤児であったということ。

この辺りの土地に詳しい孫兵衛じいさんの家で厄介になっている孤児ヒネ勝にはお梅の姿が見えるということ。




おりんと玄之介の推理合戦が始まった。

おりんにはなぜお化けの姿が見えるのか・・・

「こちらに引っ越してきてすぐに、おりんは病で本当に辛い思いをしたよな?命が危ないところだった。按摩のじいさんが出てきて揉み治療をしたろう?あのあと、じいさんが言っていたぞ。あの女の子の身体はボロボロだ、本当に紙一重のところで命を救ったと。

お前は、その年で命ぎりぎりの恐ろしい経験をした。あの世の手前までいって、三途の川のさざ波の音を聞き、その上でこの世に引き返した。この経験がお前の中に根付いて、お化けを見る力を生んだのではないか。俺はそんなふうに考えるのだ。」

おりんは少し考えてみた。
「玄乃介さまの仰ること、あたし分かるような気がする。でもね、玄之介さまの仰ることが正しいとしたら、銀次さんのお化けを見たことがあるおさきおばちゃんも、お梅に会って話をすることのできるヒネ勝も、2人とも命が危なくなるような経験をしていなくちゃおかしいでしょ?」


すると玄之介はぴしゃりと膝を打った。
「そう、おりんの言うとおりだ。それが2つ目の問題にも繋がる」



普通の人間にもお化けの姿が見えることがあるのか・・・

「お化けと人間の間に、似たようなものがある場合、それぞれに似たような気持ちのしこりを抱えている場合・・・

ヒネ勝にはお梅が見える。2人とも孤児で、そのために寂しい思いをして、苦労しているからな。

おさきおばちゃんの場合は・・・。島次と銀次の兄弟の間には不幸なことだが、難しい気持ちのこじれがあったようじゃないか。おりんはおさきおばちゃんの親兄弟の話を聞いたことがあるかい?もしかしたら、仲たがいした兄弟がいるとか、早くに病気で亡くなった姉妹がいるとか、そういことがありはしないかね?そのことをずっと、あさきおばちゃんは心に残して悲しく思っているのかもしれない。」



そしておどろ髪の暴れた理由は何であるか・・・

「おどろ髪は2つの宴席に現れた。だが振る舞いはずいぶんと違うぞ。最初のときは刀を持って暴れた。だがお化け比べのときには手放しで泣いていただけだった。あいつがただの乱暴なお化けであるのなら、どちらの宴席でも同じ様に暴れるはずなのに、おかしいじゃないか。何が違っていたのだろう。」

「お化け比べのときには若い娘さんがいました。白子屋さんのお静さん。でも最初の宴席はおばさんたちばっかりでした・・・・・。おどろ髪さん、若い娘さんを見ると悲しくなるのかな」

「どうもそのようだ。ひとつの要素としてそれがありそうな気がする。なあ、おりん。白子屋のお静にはおかしなことがあるよな?」


お化け比べの前にやって来た娘と、当日やってきた本物のお静とが別人であったということだ。

「七兵衛じいさんは、白子屋には外腹の娘がもう1人いるから、最初に来たのはそっちの娘じゃないかと考えているそうじゃないか。俺もその外腹の娘は大いにくさいと思うぞ。ここにも兄弟姉妹の葛藤というやつがあるじゃあないか。

おどろ髪はおりんに、俺は兄弟を殺したと言ったのだろう?兄と弟のいさかいと、若い娘の存在・・・・・どうもその辺りにおどろ髪が成仏できずにいる理由がありそうじゃないか」


おりんはひどく悲しい気持ちになって、鼻先がツンとした。
「あのね、おみつさんも言ってた。おどろ髪さんを迷わせているのは、若い娘さんに関わる事柄だって」


「なあんだ」玄之介はがくっと姿勢を崩した。「これは俺の発見ではなかったのか。おみつめ、俺にはそんなこと、ちらりとも匂わせてはおらなんだぞ。女は女同士というわけか」


「玄の字、あんたもバカだねえ」
突然、艶っぽい笑い声がして、おみつが2人の前にすうっと現れた。階段の1番下の段に横座りに腰掛け、すんなりとした首をよじって、こちらを見上げている。櫛巻きにした髪がつやつやと光って、沈丁花の匂いがする。

「男が心を乱すことといったら、女に決まっているじゃないか。あんたときたら、そんなことも分からないのかえ。粋人を気取ったところで駄目だねえ。」
おみつは紅いくちびるを尖らせて、うふふと笑った。


「言ってくれるなぁ」玄之介は苦笑した。


おりんは彼女のそばまで、階段をずり降りた。
「ねえ、おみつさん。あたしたちの考えていることは、きっと当たっていると思うの。あたしたちの考えているとおりだと思うの」


「そうだねえ。でもおりんちゃん、そんな一途な目で人を見るのは、いつか恋しいお人ができるときまでお待ちよ。あんたのその目ときたら、たいそうな出来物だよ。今は大事にしまっておきな。」

おりんは真っ赤になった。
「おみつさんたら、からかうんだもの」

「からかっちゃいないさ、本当のことだよ。とにもかくにも、おりんちゃん。おどろ髪はあんたにだけは心を開きかけているようだから、またあんたの前に姿を見せるように働きかけて、心にとめておいてやっておくれでないかい?あんまりしょっちゅう壁や障子に向かって話しかけていると、あんたのおっかさんが心配するだろうから、内緒でねえ」

「うん、分かった。そうします」

おりんがうなずいたとき、表の方から騒がしい声が聞こえてきた。おりんはぱっと立ち上がり、駆け出した。


おりんの母、多恵が心労により倒れたらしい。多恵は障子紙のように真っ白な顔をしていた。おりんは「お母ちゃん!」と叫びながら、太一郎の肩にもたれかかり、真冬の水のように冷たい母の手をにぎりしめた。



ふね屋の人々があわて騒ぐのを、玄之介とおみつは、階段に座ったまま静かに眺めていた。
「やあ、とうとう倒れてしまったか。開店早々のご難続きで、疲れが出るのも無理はないが・・・。しかし、これでおっかさんが寝付いてしまったりすると、おりんはますます可哀相だなぁ」


「あの子はしっかり者だからね」
おみつは言って、襟足のほつれ髪をしなやかな手つきで撫でつけた。

「女の子ってのは、悲しいものさ。しっかり者はしっかり者で、まわりの難儀を放っておけなくて、少しでも役に立とうと何でも引き受けるから、自分で自分を苦労させる。そんならうつけ者なら幸せかっていうと、これがまたそうじゃない。そういう女の子には、そのうつけに付け込む男がくっついて、ちゃんと苦労を運んでくるんだ」


「おいおい、嫌味を垂れてくれるなよ」
玄之介は首をすくめた。



そんな2人の前を、どたどたと慌しく、おつたが駆けて行く。どうやら医師を迎えに行くようである。おつたが外へ飛び出すと、奥から追いかけるように七兵衛じいさんの声がした。2人には内容までは聞き取れなかったが、おつたが元気よく「はい、分かりました!」と応じる声ばかりが威勢良く、空っぽの天井に響いた。



「俺の目には、あれもしっかり者の女の子のなれの果ての姿・・・・・まあ、しっかり者の一派に見える。それにおみつ、あの人は自分で自分に苦労をさせてるかもしれないが、楽しんでそれをやっているようだぜ」


おみつはすんなりとした首をうつむけて、深い溜息をついた。彼女があんまりうなだれたので、玄之介のところからは、うんと抜いた着物の後ろ襟を通り越して、背中の上の方まで丸見えになった。

「これはこれは、眼福だ」

玄之介の言葉に、おみつは頭を持上げると、さも呆れたというように舌打ちをした。

「なんだ、誉めているのに苦い顔かい?」


「まったく、あんたって本当に、女のことが何も分かっていないんだねえ」


玄之介はきょとんとした。おみつは彼には目もやらず、おつたが慌しく出て行った戸口の方へと首をかしげてみせた。

「あの女があんなに嬉しそうにしているのは、喜んで苦労を背負っているからじゃない。そんなことぐらい、あの顔にかいてあるじゃないか」


「どういうことだ?」



「想う男を手に入れるのに・・・」

おみつは憂いの顔のまま、ゆっくりと節をつけて謡った。

「邪魔をするのは たえぬ苦労の さざ波ばかり 
漕いで渡るは 漕いで渡るは 浮き世の 女船頭  
ちん、とん、しゃんとね・・・・・」








おみつ朝海さんが謡ってますねぇ(*´∀`*)
何だか色っぽい。

どんどん朝海姐さんにしか見えなくなってきましたね。
洗脳の域だな・・・コレは(笑)


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和服の朝海さんネタで④


※朝海さんが以前「クロワッサン」で披露された和服姿があまりにお似合いだったので、勝手に『あかんべえ』の艶っぽい和服美人おみつさんを朝海さんと仮定して読んでいこうという企画です・・・。お暇つぶし企画(*´∀`*)4弾目ッッ!!







宴席は陽が落ちてから始まった。

白子屋と浅田屋は別々の座敷に案内され、太一郎と島次の膳を囲んだ。おりんは太一郎が料理の説明にと入った白子屋の座敷の壁にぴたりと身体をくっつけて、聞こえてくるやりとりに耳を澄ませた。


お化けさんは宴席には出なかったのだろうか。いや、それよりも島次に似たお化けさんはどこにいる?おりんは周囲を見回したが、さっき見た怖い顔の男の幽霊が今はどこにも見えなかった。

白子屋の座敷から聞こえてくる会話が何やら、騒々しくなった。白子屋のお静の霊おろしが上手くいかなかったのは、この太一郎のお膳のせいだという声だ。おりんは少しばかりおかしくなって、声をもらさないようにしっかりと口を閉じて笑った。結局お静は失敗したということか・・・。それとも先に来た時にきれいに祓いすぎてしまったとでもいうのだろうか。

そもそも按摩のじいさんは最初からお静のことを全然認めていなかったのだから。実際おりんは尋ねてみたかった。おりんに見えるこの家のお化けさんたちのうち1人でも、お静には見えたのだろうか・・・。


中の様子が、いよいよ騒々しくなってきた。それは太一郎が言い出したことから始まった。「先日、お嬢様お1人で起こし頂きました際には、座敷を見回って、座敷を掃き清めるようなものだとおっしゃって、お祓いをして下さいました。」

お静の声が裏返った。「何ですって?」
「あなた、なんでそんなデタラメを言うんです?いったいどういうことなのこれは!!」

がちゃんという音がした。誰かが膳を倒したか、膳を叩いたかしたようだ。

「分かりましたよ、あなたたち、浅田屋さんに何か言い含められたんでしょう?そうやってデタラメを並べてお静の気持ちを乱したり、わざと塩気のきつい料理を出して霊おろしの邪魔をして、白子屋の顔を潰そうとしたんでしょう?言いなさい。浅田屋にいったいいくら握らされたんです?」

とんでもないことになってきた。階段の方から音がする。多恵だった。大きな声を聞きつけて、様子を見に上がってきたのかもしれない。おりんは廊下で狼狽した。隠れるところがどこにもない。どうしよう。

そのとき、冷たい風が顔を撫でたかと思うと、階段の手すりの向こうに、おみつがふと姿を現した。何もない暗がりに、闇を分けてすらりと立ち出たおみつは、そのまま廊下をすうっと進んで、おりんの傍らへとやってきた。宴席の前に会ったときと同じ櫛巻きの髪に浴衣姿で、すっかり闇になったこの時刻に見ると、少しばかり寒そうだった。

「じっとしていなさいな。あたしが隠してあげるからね。」
そう言って、おりんのそばに腰をおろすと、守るように背中にかばってくれた。とっさのことだから、おりんには半ば透けたようなおみつの身体が本当におりんを隠すことができるのどうか、問いかけている余裕はなかった。

心配そうに階上の様子をうかがいながら、多恵が階段を上がってきた。その間にも白子屋の座敷でのやりとりは怒気を増して、お静の声はどんどん大きくなる。太一郎のなだめるような物言いも、かき消されて切れ切れにしか聞こえない。

浅田屋の座敷の唐紙が開いて、おつたが顔をのぞかせた。給仕のついでに話し込んでいたらしい。おつたの後ろに浅田屋の娘おりくの顔がのぞいた。浅田屋の人々の顔は少しばかり笑っている。白子屋の方でいったい何の騒ぎが起こったのかと、面白がっている様子だった。


「おやおや正直なもんだねえ。笑っているじゃないか。」おみつは喉をならしておほほと笑った。

「浅田屋さんはお化け比べに勝ったと思っているのかしら・・・」おりんはおみつに問いかけた。「あらまあ、どっちの勝ちも負けもないよ、おりんちゃん。だってごらんな、あの人たちの誰かの目に、あたしとおりんちゃんの姿が見えてるかい?」

見えてはいない。見えているもんか。

「わかってるんだ、あたしも。按摩のおじいさんも言ってた。あてにならないって。」


浅田屋も白子屋の座敷にぞろぞろと入り、ほとんど喧嘩のようなやりとりが続いた。

「だけどさ」おりんはおみつのそばで小さくなりながら続けた。「霊おろしがインチキかどうかってことと、お化け比べの勝ち負けは、また全然別の話なんだよ。だってお父ちゃんとお母ちゃんは、あたしみたいにおみつさんたちとは話ができないから、白子屋さんと浅田屋さんの言うことに振り回されちゃう。」

「そうか、そうだよねえ。考えてみりゃ迷惑な話だね」

「お化け比べなんかさせなくたって、あたしの目に見えることを正直に打ち明ければよかったんだ。そしたら、こんなインチキな人たちに利用されることもなかった。ちょっとの間でも、お静さんやおりくさんの霊おろしが上手くいけば、ふね屋からお化けさんたちを成仏させることができるかもしれないなんて、考えたあたしがバカだった」

思わず口走った本音だった。おみつはおりんを優しく見下ろして、何も言わずに微笑んだ。

あたしがバカだったんだ。こんなのお化け比べでもない。宴席でさえない。仲たがいをしている2つの家が、太一郎の工夫した美味しい料理を無駄にして、その膳を倒していがみ合っているだけじゃないか。

「し、じっとして」おみつが涙ぐむおりんを押し留めた。「ほら、ご覧よ、おりんちゃん」

おみつの指差す先に、おどろ髪が立っていた。今日もあの日と同じ、右手には抜き放った刀をさげている。

「おみつさん、あのお侍さんのことで何か知ってるの?」
「知りゃしないさ。玄の字は何か言ってるかい?」
「あのひとのことはよく分からないって」
「それはあたしも同じだけど、でもあの人は何か女のことで心にかかっていることがあるんだよ。こういうことについちゃ、あたしの勘に間違いはないね。きっと色恋がからんでいるのさ」少し笑いながら、おみつは言った。
「動いちゃ駄目だよおりんちゃん、隠れておいで」


廊下でごちゃごちゃと揉めていた一同は、結局白子屋の座敷へとなだれ込んだ。きゃあという悲鳴があがった。おりんはとっさに、悲鳴に刺激されて、またおどろ髪が暴れ出すのではないかとヒヤリとした。


「あたくしはインチキなんかじゃないわ!!」
お静が泣き叫ぶ。その時に、おどろ髪がビクリと反応してがくんと口を開けた。おりんは緊張した。今にもおどろ髪の刀をつかんだ手が持ち上がる・・・・・そして彼は座敷に暴れ込み・・・・・

その時、島次がすっと立ち上がった。その顔は面のようにのっぺりとして、ほとんど表情がなかった。ぽかんと開いた両目は節穴のように真っ暗で、そこには何の明かりも映っていない。


おりんはぞっとした。おみつは首筋を固くして、目を細めた。
島次の後ろにまたあの男のお化けさんが立っていた。島次に似たそのお化けさんの半分透けた身体が、すっかりと島次の上にかぶってしまった。

そして島次の口が開いた。
「ここから出て行け!みんな出て行け!出て行かねば取り殺してくれる!」

一同は呆気にとられて声も出ない。
おどろ髪が「おうおう」と声を上げた。おりんは鋭くそちらを見返り、そして、おどろ髪の血走った眼からどっと涙が溢れるのを見た。

「何という口のききようだ!!」
白子屋長兵衛が島次を睨みつけて憎憎しげに吐き出した。その瞬間、島次は白子屋長兵衛の首っ玉に両腕をかけてぐいぐいと締上げる。あまりの恐ろしさに棒立ちになっていた一同は、正気に戻り、一斉に島次の方へ殺到した。

「その手を離さんか、白子屋さんを殺す気か!!」
浅田屋為治郎が唾を飛ばして怒鳴りながら、島次の腕をとった。白子屋はぜいぜいと喉を鳴らし、咳き込みながら床を這って逃げ出した。

「おや、まあ。ご覧よおりんちゃん。」おみつが驚いたように声を撥ね上げた。為治郎と太一郎に羽交い絞めにされた島次は急にしゅんとおとなしくなった。まるで操り人形の糸が切れたみたいだった。そしておりんは見た。島次に似たあの男のお化けさんが、彼の身体からすうっと離れて出てくるのを。


「ちょいと、あんた」
おみつがするりと立ち上がりながら、男のお化けさんに声をかけた。撥でピンと弾くような、鋭い問いかけ。
「他所様の座敷を土足で踏み荒らすような真似は粋じゃあないね。あんたはどこのどなただい?」

男のお化けさんと対峙するおみつは、人が変わったように厳しく怖い顔をしていた。その爪はにわかに尖り、その口はにわかに毒を持った。

「女のくせに、やけに威勢のいい口をきくね、姐さん」男のお化けさんはそう言って、しわりとこちらに近づいてきた。
「俺がどこの誰であろうと、姐さんに何の関わりもなかろうに」

おみつは微動だにせず、ひるんだ様子もなかった。眉の間に深いしわを刻んで、心もち首をかしげてはいるが、背筋はしゃんと伸びている。
「関わりはあるよ。ここはあたしの縄張りだもの。一言の挨拶もなしに、ここで暴れられては、あたしの顔が丸つぶれだ」

「そいつはすまねえ、だがな姐さん、俺には俺の言い分があるのよ。あれは俺の弟でな・・・」お化けさんは気絶した島次が運び込まれた座敷の方へ顎をしゃくった。「あれは俺の弟でな。10年ばかり前、俺はあいつに殺されたのだ」


「あの人は島次さんといって、ここの料理をこしらえている板場の人だよ」おみつは確認するように、ゆっくりと男のお化けさんに問いかけた。「本当にあんたの弟なんだね?」

「俺は銀次だ。姐さん、よろしくな」

おみつはお愛想を返さなかった。
「あんたは島次さんを恨んで憑いているのかえ」

「そらそうだ。恨むだけの理由はたんとある。店を盗られた。女房子供を盗られた。命を盗られた。」
「あんたが憑いていることを島次さんは知っているの?」
「知っているさ。俺はさんざん夢枕に立ってやったのだから」
「あんたは島次さんをどうしたいの。今日のように人前でおかしな振る舞いをさせたって、それがあんたの益になることとも思えないけれどね」

「俺は島次の身体を乗っ取りたいのだ」
銀次のお化けさんはあっさりと答えた。
「あいつの魂を身体から追い出して、そこへ入り込んで、あいつの身体で残りの人生を生きたいのだ」

「姐さん、あんたにとっちゃ縄張りを荒されているようで不愉快だろうが、ここはひとつこらえちゃくれねえか。俺は長年かけて島次の魂を痩せさせてきた。あと一息であいつの魂を掻きだすことができる。そうしたらもう姐さんには迷惑をかけねえ。姐さんが望むなら、姐さんのために何か供養になることをしてやったっていいんだぜ」

早口にそれだけ言い切ると、彼は霧のように姿を消してしまった。


白子屋と浅田屋の一家は逃げるようにしてふね屋から去っていく。そのときにお静の顔をまじまじと見たおりん・・・。

「ねえ、お父ちゃん、あれはお静さん?先に来たお静お嬢さんとは違う人だよ」太一郎は最初、おりんの声など聞いていないようだった。でも袖に追いすがって何度も同じことを言うと、ようやく彼の目が晴れ、足が止まった。

「何だって?」
白子屋一家は階下へ下り、履物を履いている。その娘の横顔を確かめるようにして、太一郎はぽかんと口を開けた。「本当だ・・・」

「今度は何だと言うのだ!」うるさそうに太一郎を振り返って、長兵衛が言った。乱暴に押しのけられて、太一郎はよろめいた。


こうしてお客は誰もいなくなってしまった。


太一郎は玄関先に突っ立って、泣くような声でどういうことなんだと呟いた。おりんは父親の泣き顔を見るのが怖くて、助けを求めるような気持ちで階段の上を仰いだ。



しかし、おみつも玄之介もおどろ髪も、姿を消していた。すうっと寒いような風が吹き降ろしてきて、おりんの髪を撫でただけであった。









にゃぁぁぁぁぁあ~!!おみつッッ!!長いッっ!!


そうこうしている内に『トライアンフ』が始まっちまうよぉぉ!


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和服の朝海さんネタで③

『エリザベート』のルドルフWキャストのお2人めが決まったそうですねぇ(*´∀`*)
これで、全キャストが揃ったのかな・・・?
今年8月に、中日劇場を皮切りに始まる4都市公演!!
まだまだコムちゃんのシシィを見ることが出来るっという実感が湧かないけれど、
水面下ではどんどんと東宝エリザベートに向けて進んでいってるのでしょうね!

あッ!!『トライアンフ~』のチラシをやっと入手できました(*´∀`*)
表面の接近加減が半端ないですねッ!
武田くんの堀の深さがすっごいカッコイイ!!
コムちゃんの前髪生え際の渦巻き加減が何だか可愛い!!

そして裏面のぶりぶりドレスのコムちゃんの微笑みよッ!!
かっわいいったらナイね。

少人数ながら、み~んな個性がばんばんチラシからも出まくっていて、
どんな舞台が繰り広げられるのか、今から楽しみですわ(*´∀`*)ノ
しぃかし、こちら兵庫県での公演は平日のみの4公演・・・。
かなり厳しいなぁ・・・・・くぉぉッッ(`ε´)ノ


と、かなりの間、ほったらかしにしちゃいました『おみつさん』。
続きをば・・・。







突然のお静の来訪も、ふね屋の人々の「お化け比べ」に相応しい宴席料理をつくりだそうという熱意に水をさすことはなかったようで、翌日も太一郎と多恵は夜明けと同時に台所にこもり、作業を続けていた。

おりんはその後も、玄之介と話すうちに、ここに彷徨うお化けたちは30年前にこの「ふね屋」の建物のすぐ近くに建っていた興願寺での恐ろしい出来事に関わりがあるのではないか・・・と思うようになった。



30年前のある夜、興願寺は凄まじい炎に包まれ、全焼した。

寺という上物がそっくり燃えてしまった後、焼け跡を掘った・・・・そこからはごそごそと骨が出てきたという。後になって興願寺の坊主たちの話をつき合せて分かったこと。寺に火をつけたのは住職だったのだ。火の手が上がり、騒ぎが始まったとき、住職が寺から逃げていくのを数人の坊主が目撃していた・・・。1人の坊主が言ったという・・・・「ああこれで、やっと恐ろしい厄介が終わる・・・」・・・住職は鬼に魅入られて人の道を踏み外し、たくさんの人を殺めた。山ほど殺めた。芋の皮を剥くように簡単に人を殺して、その骸を寺の裏に埋めていたのだという・・・。



そして、浅田屋と白子屋のお化け比べの当日がやってきた。
晴れ上がり、日差しの明るい日だった。ふね屋の人々は早朝から支度と仕込みにかかり、それはそれは忙しなく働いていた。仕事となると、おりんはうかうかと台所に踏み入ることが許されなくなる。だから顔を合わせることはなかったが、どうやら今回は島次という人が手伝いに来ているようだった。


その内に、背中のあたりが妙に冷や冷やとすることに気がついた。階段の脇にかがんだまま、ひょいと首をよじって後ろを見ると、すぐ目と鼻の先に5人の亡者の1人、按摩のじいさんが、おりんとそっくり同じ格好をして座り込んでいた。

「わわ!」おりんは叫んだ。
幸い、台所の方で騒がしい音がしており、おりんの声には誰も気付かなかったようだ。おりんはそろそろと階段の脇に戻り、按摩のじいさんと向き合った。


「今日のお客さま、うちでお化け比べをするんだって。知っていました?」
按摩のじいさんは額に深いしわを刻みながら階段の上の宴席の間に目をやった。

「本当よ。おじいさんたちの姿も見えるかもしれないね。」

浅田屋と白子屋の娘、お静とおりくの霊力が本物ならば、按摩のじいさんたちがふね屋から離れて成仏できるように、力添えをしてくれるかもしれない・・・とおりんは早口で言い足した。ところが、按摩のじいさんはそれを聞くと、口のへの字に結び、怖い顔になって吐き出すように言い捨てた・・・。
「成仏なんぞ、したないわい。」

おりんはぽかんと口を開けた。
「だけどおじいさん・・・。成仏しなかったら、ずっとここで迷っていなくちゃならないのよ。お化けのまんまでいなくちゃならないのよ。」

「それのどこが悪い」

おりんは返す言葉もなくて、そとんと尻餅をついた。確かにじいさんの言うことには一理ある。お化けたちを成仏させ、ここから立ち退いてもらいたいというのは、おりんの側の都合であり、願いなのである。でも・・・


「でもね、おじいさん。玄之介さまは、あたしがみんなを成仏させる手伝いをして下さるって言ってた。だからあたし・・・・・てっきり、みんなを成仏させるのは良いことだって・・・・だってそうじゃないの、お化けのまんまでいるなんて、悲しくないの。」

按摩のじいさんは鼻を鳴らした。「悲しくなんぞないわい。」

「・・・・・」

「あの若僧はおまえの手前、強がって見せただけじゃ。消えてなくなることを望むような奴がどこにおる。」

「そんな・・・」
よくよく見れば、じいさんの姿は半分透けていて、後ろの羽目板の模様がうっすらと見える。こんな間近にいても、生き物の気配というようなものはなくて、ただしんみりと寒いような感じがするだけだった。それでもじいさんは消えてなくなりたくはないというのだ。玄之介だって本音は同じだというのだ。おりんはすっかり頭が混乱してしまった。


ちょうどその時、台所から大きな盆を捧げて、あの島次という人が出てきたので、おりんは急いで頭を引っ込めた。島次は階段を上がっていく。

「おや、あれは誰じゃ」
按摩のじいさんは階段を上っていく島次を指して訊いたのではなく、階段の下にいる、島次を見上げるようにして立っている男を指していた。

島次より大柄だが、目元のあたりが彼に似た男が、思いつめたような顔をして島次の背中を見送っていた。白い前掛けをしていることろは包丁人の出で立ちで、その姿は半分ほど透けていた・・・。

「あの人もお化けさんだよね。」
おりんは島次に似た男から目を離す事ができなかった。

「さっきの板場の男に憑いていると見える。」
按摩のじいさんは不機嫌そうに言った。


「おりん、そんなところで何をしているの?」
母親の多恵に声をかけられて、おりんは島次に似たその男を見失ってしまった。

「お客さまが来ると、やっぱり賑やかでいいね、お母ちゃん。」

多恵は嬉しそうだった。客商売に効くお薬は、やっぱりお客が来ることなのだとおりんは思った。

「ええ、そうね。今日は大忙しだから、いい子にしていてちょうだいね。」
多恵はそう言って微笑むと、足早に階段を上っていった。


「わしゃ、帰る」
按摩のじいさんはおりんの方を振り向きもせずに、廊下の端まで滑り、消えてしまった。

「おじいさん。この後、もう一組お客さまが来るから、急に出てきたりしないでね。みんなびっくりしちまうから。」
返事はない。これはもっと早くに言っておくべき大事なことだった。
「ね。お願いだからねおじいさん。出るときはあたしにいっぺん声をかけてね。」


「そんなことを言うってことは、あんた、白子屋と浅田屋の巫女さんたちの霊力とやらを信じていないんだね?」

背後でいきなり声がしたので、おりんはびっくりして飛び上がった。

「おやまぁ、そんな顔をすると、目玉が飛び出ちまう、そら、受けてあげようか。」

おみつであった。階段の下から三段目に腰をおろして、笑いながら、おりんの顎の下に手のひらを差し出している。おりんは彼女の足元に寄り、階段の一番下に座った。今日のおみつは髪を櫛巻きにして、白地に藍色の大きな朝顔の柄を染めた浴衣をするりと身に纏っている。三味線も持っていない。ちょうど湯上りのような風情で、とても美しかった。


「白子屋のお静さんと、浅田屋のおりくさんにかかったら、あたしたち行き場のないお化けはみんな呼び出されて、どうして自分たちが未だにこの世に迷っているのか、洗いざらい打ち明けることになるんだろ?だからこそのお化け比べじゃないか」
おみつは面白そうにそう言った。

「按摩のじいさんだって、あたしだって、たとえ出てきたくなくたって、みんな呼び出されちまうはずなんだ。あんたはそうは思わないのかい?」


おりんは溜息をついた。
「そうだよね。だけど、おじいさんはそんなのあてにならないって言ってた。」

「あたしもそう思うよ。」
おみつは櫛巻きにした髪を手でするすると撫でた。
「だって考えてごらんな、先にお静がお祓いとやらに来たときだって、あたしたちは何にも感じやしなかったんだから。」

言われてみればそうなのだ。
「何だかあたし、頭がぐるぐるになってきた。」
おりんは正直に弱音を吐いた。

「いいじゃないか、分からなくても。お化け比べだろうが何だろうが、とにかくここにお客が来てくれたってことだけを喜んでおけばいいんだよ。お客の中身は、あたしたちもあんたにも、もちろんあんたの親たちにも、しょせん関わりのないことさ。」


「ねぇ、おみつさん。」

「何だい?」

「按摩のおじいさんは、成仏なんかしたくないって言ってた。」

おみつは黙っておりんの顔をのぞいている。おりんは足元を見ていた。

「おみつさんもそう?今のままでいたい?消えてなくなるなんて嫌だよね?」

おみつはちょっとまばたきをして、優しく微笑した。
「あんたはあたしたちがここにいるとお邪魔かい?」

おりんは言葉を呑んでしまった。そんなこと考えた事もなかった。

おみつはおりんの頭を軽く撫でた。おりんはすうと冷たいものを髪に感じた。

「本当のところを教えてあげようか。あたしたちはね、自分がどうしてこんな姿でここにいるのか、まずそれが分からないんだ。
人は死んだらどうなるのか、死んだらどこへ行くのか、自分は自分でなくなるのか、それとも自分は自分のままで、この世とは全然別のところに行くのか。
あたしたちにはそれが分からない。だって、死んだのはこれが初めてだからね。玄の字や按摩のじいさんだって、みんな同じさ。あたしたちはここにいる同じ身の上同士のことしか知らないから、お化けにはならない普通の人たちがどこでどうしているものなのか、てんで分からない。知りようもないんだ。

成仏するとどうなるのか、あたしは知らない。普通は成仏するものなんだから、あんたもそうしなさいと言われたら、さいざんすかすみませんねえと思うけれど、さてどうしたら成仏できるか分からない。なぜあたしは成仏していないのか、それも分からない。よっぽどひどい死に方をしたのかしら。」

おみつはころころと笑って、おりんの頭を撫でた。
「何であたしたちはこんな具合に宙ぶらりんになっているんだろ。事情のある死人なんざ、掃いて捨てるほどいるのにさ。どうしてあたしたちだけが変なんだい?それとも、ひょっとしたらこうなることが、成仏するってことなのかもしれないよ、おりんちゃん。あたしたちは何もおかしくないのかもしれないよ。」


おりんの小さな頭がまたぐるぐるとし始めた。
おみつの言うとおりかもしれない。お化けさんたちはこのままでいいのかもしれない。どこにも行くことはないのかもしれない。今こうしていることが、そのままあの世の暮らしなのかもしれない。


「浅田屋さんが来たようだよ。」
おみつに言われて、おりんは目を上げた。

「お揃いだね。」
と、おみつが笑いを含んだ声で言った。
「さあ、どうなるかね・・・」


陽が落ちるころ、宴席は始まった・・・。







長いですね、コレ。

朝海さんのところだけを抜粋するはずが、
やっぱりそれではお話が分からないので、
かなり詳細に書き連ねてしまってます^^;

こんなはずじゃぁぁぁ・・・・・。
もうすぐ上巻がおわります(*´∀`;)


朝海さんの情報なんかないかなぁ~~(`ε´)ツマンナ~イ


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和服の朝海さんネタで②


大劇場に行けば、『トライアンフ』のチラシがあるのかな~(*´∀`*)
とか思いつつ、そのために行くのもな~・・・・とか何とか考えながら、
水さんの雪組よりも、真飛さんとこのプレお披露目の方を
むしろ見たいな~と近ごろ思ってしまう、
自分が組ファンではなかったと気付いた論者です。

ちょっと危うい感じの真飛さんと、
そんな真飛さんを全く心配せずに我が道を行きそうな
えりたんとのコンビ芝居ってどんなだろう・・・・ッッ。

『メランコロック・ジゴロ』って1番手2番手の掛け合い芝居だもんね^^
真飛さんが、えりたんに喰われませんように☆

中日劇場と言えば、今年の夏は『エリザベート』!!
1週間くらい前にNHKで涼風さんを発見!!
素晴らしく美人(・∀・)ノお姫様って感じッッ!!

朝海さんもどこかメディアに出てくれないかな~(`ε´)
でもあまり安売りはダメよね、やっぱり。
露出が少ないからこそ、舞台を観劇できたときの喜びも大きいんだわね。




ではさっそく『あかんべえ』の続きを始めます(*´∀`*)


※入り込みやすいように(?)
 論者が勝手に主要メンバーの配役も決めちゃいます^^

おみつ(亡者)・・・・・・・朝海ひかるさん。
太一郎(おりんの父親)・・・武田真治くん
玄之介(亡者)・・・・・・・桜井翔さん
おどろ髪(亡者)・・・・・・蟹江敬三さん。
多恵(おりんの母親)・・・・松雪泰子さん。
おつた(ふね屋の世話人)・・国生さゆりさん。





おりんちゃんの父親・太一郎を主人とする「ふね屋」には5人の亡者が
彷徨っていた・・・。

あかんべぇする少女・お梅。
美男の若侍・玄之介。
婀娜っぽい姐さん・おみつ。
按摩のじぃさん。
おどろ髪の男。


「ふね屋」では店の船出を飾る宴も終わろうとしていた。
主人の太一郎が胸を撫で下ろした矢先、突然、
抜き身の刀が暴れ出し、座敷を滅茶苦茶にしてしまった・・・。

亡者の姿は誰にも見えなかった・・・
しかし12歳の娘おりんには、
刀を握るおどろ髪の亡霊が見えていた・・・・・


若侍の亡者・玄之介を初め、「ふね屋」に住みつく亡者と
心を通わせていくうちに、おりんは「ふね屋」の怪異が30年前に
ここで起こった忌わしい事件に関わっていることに気付く・・・。


「俺たちが立ち退いた方が、ふね屋のために良いということも、
分かりきっている。おまえの父母は、俺たちがいるせいで、
しなくていい苦労を抱え込んでいるのだ。
すまないな、おりん。
どうすれば、うまく三途の川を渡れるものかな」
玄之介は頭をひねった。

玄之介たち亡者が思い出すことの出来ない失せ物。
ふね屋の立つ、この地域に30年前に起こった事件。
それが分かれば、みんなは成仏できる・・・
おりんはそう考えた。

「どうして玄之介さまたちがこの世にとどまらなくちゃいけないのか、
その理由を見つけて解きほぐすことができればいいんでしょ?
それなら、あたしやってみます。」

玄之介は真一文字に口を結び、そのままうんとうなずいた。
「そうだな。おりんになら出来るかもしれん。
いきなり俺たち5人の姿を見ることが出来たのだからな。」


・・・・・


お化け騒動でその行く末が危ぶまれる「ふね屋」では、
その事件を面白がった2組の商売屋「白子屋」と「浅田屋」が
お化け比べをしようとの話がまとまり、
ふね屋2度目の宴席の準備に追われていた。

おりんの父親・太一郎。
おりんの母親・多恵。
太一郎と多恵が住み込みで働いていた弁当屋「高田屋」から
助っ人として「ふね屋」の手伝いをするおつたさん。

「ふね屋」の怪奇を解決したい一心で、
宴席について、あれこれ口を出していたおりんちゃんは
つい先ほど、おつたにお叱りを受けたばかりであった。

おりんは台所の隅の空いた樽に座り、所在なく、
足をぶらぶらさせていた。
すると、戸口の方から三味線のつま弾きと共に、
美しいおみつの歌声が聞こえてきて、おりんは顔を上げた。

さっきおつたが灯したはずのろうそうくは、
どういうわけか消えていた。
戸外には宵闇が静々と降りてきつつある。
その中で、おみつ一人、白い首筋や手の甲や指先を
ほのかに光らせながら、夕顔の花のようにぽっかりと咲いていた。

「あら、良い子がきたね。」
おりんの気配に気付いたのか、彼女ははっと振り向いて微笑した。

「しばらくお顔を見ませんでした。」
おりんは言って、おみつから二尺ばかり離れた壁際に、
はばかるように身を寄せた。
怖いのではなく、恥ずかしいような、あがったような気分になった。
おみつはとても美しかったから。

「あたしは気まぐれなんだよ。」
さらん、と三味線を鳴らす。

「それにあんた、ちっともあたしを呼んでくれなかったじゃないか。
玄の字が優しくしてくれるから、すっかり用が足りておいでだったのかい?」

おりんは真っ赤になった。自分でもそれが分かった。

「おやまぁ、可愛いね」
おみつは楽しげに笑うと、また三味線の棹を傾けた。

♪あきらめましたよ  どうあきらめた
 あきらめられぬと  あきらめた・・・♪

象牙の撥を握るしなやかな指は、
季節はずれの雪のように白い。
おりんは魅せられたようにおみつを見つめていた。

「ねえ、良い子ちゃん。」
おみつがするりと座り直して、おりんの方を向いた。

「あんた、おどろ髪の恨みを解いてやろうと考えているんだってね。」

おりんはおみつの隣にしゃがんだ。
彼女は良い香りがした。

「あたしにはできないと思いますか?」

「あたしたちを成仏させることを?」
おみつは問い返して、優しくおりんを見下ろした。
「いいや、あんたなら出来るかもしれないよ、良い子だからね。」

本気で言っているのじゃない、慰めているのかもしれない・・・
そう思ったから、おりんは黙ってうつむいていた。

「本当にそう思うんだよ。」
おみつはおりんの心を読んだようにそう言った。

そうかな・・・あたしだって悪いこととかいっぱい考えるけど。
おりんは内心そう思った・・・

するとまたおみつは先走りして言った。
「そりゃ悪いことだって考えるだろうさ。
だけど大人みたいに、余計なことは考えない。
必要のないことは考えない。それが子供の良いところサ。」


その頃、ふね屋の大人たちは、
白子屋と浅田屋のお化け比べの宴席を前に、いきなり、
「ふね屋」に悪い気が溜まっているのが見えるとやってきた
白子屋の娘と名乗る女の帰りを送り出していた。

「これでもう、安心でございますよ。
あたくしがよく祓っておきましたから、もう障りはありません。
とりあえずは、お化け比べまで何事も起こりませんわ。」

おつたが笑いながら、いかにもお追従の口調で言った。
「きれいに祓っていただいたので、
もうお化け比べをする必要もなくなってしまったのじゃありませんかしら。」

すると女はきっと目を吊り上げた。
「そんなふうに簡単にお考えでは困ります。」
おつたはしゅんとして肩をすぼめた。
「それは失礼を致しました。」


「ねえ、ごらん」
おみつは長い人差し指で一同の方を指し示した。
「あれがみんな、余計なことを考えている大人だよ。
あの娘、何者なんだろうね。」

「白子屋のお静さんていうお嬢さんです。」
おりんの言葉におみつは優雅に首をかしげた。

「さて、どうかしら」と、
指先で後れ毛をかきあげる。
「かわたれ時にやってきた、おっかないもののけかもしれないよ・・・」


つづく。






おみつさんはとっても魅力的な女性ですよねぇ(*´∀`*)
でもコレまた玄之介さまも色男なんですよぉッッ!!

ここまでで上巻の半分くらいまできました!
けっこうすっ飛ばしているところが多いので、
アレッ?と思われるところがありましたら、
どうぞお気軽にッッ(・∀・)ノ

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私の毎日は朝海さん一色!!そんな約4年間の記録です。

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